とりあえず流れで学校に来ている。
朝、あの後僕はこの体の女の子の母親?にさりげなくいろいろ聞いて見た。
「あの〜、ここってどこでしたっけ?」
「はぁ?何言ってるの?ここはあなたの家でしょ!」
「…ぼ…私って何歳?」
「……大丈夫、早苗?あなた熱でもあるんじゃない?
あなたはこの前17歳になったばかりじゃない」
「17歳、ってことは高校生?」
「……そうよ、高校二年生………ちょっと、何、ほんとに熱あるの?」
「えっ?うんん、ないよ、あは、あはははは」
「………早く朝ごはん食べて制服に着替えてらっしゃい」
「は、はーい」
そう、この子は高校二年生。
つまり僕と同じ。
しかもこの制服、これは僕が通っている高校の女子の制服と同じ。
そして極めつけは、制服の胸ポケットにしまってあった生徒手帳を見ると
クラスも僕と同じのようだ。
でも僕は鏡で見たこの女の子のことなんて知らない。
なぜならクラスメイトにこんな子はいないのだから。
うーん……
あれこれ考えているといつの間にか自分のクラスの教室の前まで来ていた。
この教室の中ではいったいどんな状況に陥っているんだ?
誰あれ?とか言われるのだろうか、そう言われたらすばやく退散しよう。
それともまた別な反応を……
怖くて立ち竦む。
ゆっくりとドアの取ってに手を掛けた。
「おっはよ!早苗!!」
教室の前から動けなかった僕の肩を軽く叩き女生徒が声を掛けてきた。
「お、おはよ」。
この女生徒は知ってる。
名前は水越麻衣、間違いなく僕のクラスメイトだ。
僕は引きつりながら言葉を返した。
「どうしたの?教室の前でぼーっとして。早く入ろ!」
「うん」
恐る恐る教室の中に入る。
すると、僕に気がついたクラスメイトはみんな「おはよー」と言葉を投げかけてくれる。
……何で??
「あ、あの……ぼ、私の席ってどこだっけ?」
おどおどしながらも今置かれている状況に口を合わす。
「何それ?天然?それとも新しいボケ?早苗の席はそこでしょ」
水越さんに尋ねると、真ん中の列の一番後ろの机を指差していた。
……ここは昨日までは空席だったはず……
「あ、ありがと」
そして僕は一番気がかりだったことを確かめる。
そう、それは僕、僕自身の存在だ。
僕の席を見る。
だが、その席には誰も座っていなかった。
僕はここにいるのだから僕はもう存在しないのか?
僕は、僕という存在はもう消えてしまったのか??
もしそうなら……僕は自分が消えてしまったことに対してどう思えば良いんだろう。
……わからない。
カラーン、カラーン
始業を告げる鐘が鳴り響く。
みんながぞろぞろと自分の席に戻る。
と、その時、ものすごく必死に廊下を走る人影が見えた。
その人は前のドアから駆け込んで………
…目に届いた光景を疑った。
ぼ、僕だ!
休憩時間
僕はこの途方もない状況に一人、とてつもない混乱、困惑に陥っていた。
クラスメイトの話しからすると、この体の子の名前は葉月早苗と言うらしい。
みんなからは良く話しかけられる。
けっこう性格もいいらしく人気があるみたい。
そして、何より一番重要なのは、この女の子はクラスメイトはもちろんのこと先生や他のクラスの人
全てに認識されていて、間違いなく以前からここに存在していたようだ。
……そんなはずないのに……
だって昨日もこの教室にいた僕がこんな子知らないのだから。
……でも他の子だってそうだ。昨日も確かにこの教室で一緒に授業を受けたはず。
でもこの場合、人数的に僕がおかしくなったって見なされるのか?!
あーーー、もう!わからない!!
こんなことどう考えたって答えにたどり着かない!着くわけがない!!
今考えていたことをとりあえず置いておくことにして、もう一つの懸案事項に探りを入れた。
僕は窓際の一番端で一番前の席に座っている僕を眺めた。
いつもの友達三人でかたまって、それぞれマンガ本を読んでいる。
おっ!
僕が友達二人にに声を掛けた。
……どうやら読んでたマンガの面白かったところを二人に見せているようだ。
しばらく沈黙が続き………同じタイミングでははは、と笑っている…
…………何だあれ(-_-;)
おっ!また動きがあった。
三人とも読んでたマンガをしまい、鞄から何やら取り出している。
出てきたのはカードの山だ。
ガン○ムウォー、僕らの間で流行っているカードゲーム。
それを今からやるつもりらしい。
カードを切りながら楽しそーに何やら話している。
…しかし、こう客観的に見てみるとあそこだけ完全に外部と切り離された異空間を構成しているように思えてくる。
……あれは僕なのに……
と、一人、自分にあきれていると、男子数人が僕らをからかいに来た。
僕らは苦笑しながらもそれに受け答えしている。
「早く向こう行け」と心の中で激しく思ってるんだろうな……
あっ!
男子がカードを一枚奪った。
しかも僕の……
僕は「返して、返して」と手を伸ばしている。
が、返してもらえる気配がまったくない。
友達二人はそれにまったく関与しようとしないで、平然とゲームを続けてるし……
………しかし僕もけっこう必死に取り返そうとしてるな…
僕は目を凝らして取られたカードを見てみた。
……あ、あ、あれは…苦労してこの前よーやく手に入れたストライクフリー○ム!!!!
あのカードを手に入れるためいったいいくらのお金をつぎ込んだことか…
僕は思わず席を立って僕の席へ向かった。
「そのカード返して……返しなよ!」
勢いそのままに声を上げたが、「返して」と言って返してくれる奴ではないことに気づく。
顔もかなりキョドってたし……
僕は言葉につまりかけた。
ここで何も言えなかったら最後、彼らのターゲットに加わるのは間違いない。
必死に言葉を探す。
と、その時、「…わかったよ、…ほらよ」と言ってカードを渡し、てこてこ自分たちの席へ戻っていった。
あれ?いつもならこんな簡単にいかないのに……
安堵と同時に少し拍子抜けした。
何かにひっかっかったまま、僕は僕に取られたカードを「はい」と渡し、席に戻ろうと二、三歩、歩むと
「大丈夫だった?」とか「何かされなかった?」とかと心配そうにみんなが僕に駆け寄ってきた。
僕はそれに「うん、大丈夫」とか「ありがと」とかと答えたが…
一番励まされていいはずのもう一人の僕には誰も声をかけてくれない。
…………何、この差??
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