「どっちを選ぶの?」
先生が帰って数時間たった。
僕はそれからずっと先生に問われた質問の答えを考えていた。
美奈と付き合う………一度はそう決めたはずだったのに……
実際のところ僕はどっちと付き合いたいのかわからなくなってきた。
美奈と一緒にいるときは美奈と…
先生と一緒にいるときは先生と…
こんな風に心が動く。
優柔不断もこの上ないと自分でもすごく思う。
でも、考えてもわからいのだから……どうしようもない。
………いや、もう答えは出ている。
でも、その答えは選択肢には含まれない。
二人とも好き、二人と付き合いたい。できることなら…
でもそんなこと許されるわけがない。
必ずどちらかを選ばなくてはならない。
じゃあ、それはどっち?
そもそもそれはどうやって決めればいい?
顔?性格?
一緒にいて楽しい方?一緒にいたいと思う方?
もしそれらに差がなかったら…
あとはどんなものさしを用意すればいいのだろう……
………
そういえば、美奈に電話しないと…
僕は近くに転がっていた携帯を手に取り、メモリの欄を美奈に合わせた。
トゥルルルル、トゥルルルル……
………
………出ない。
………
もう寝よう。
朝、まだまだらな教室。
昨日のことを美奈に謝るために今日はいつもより早く登校したんだけど……
……まだ来てないようだ。
ちょっと早く来すぎたかな。
僕はとりあえず自分の席について一息入れる。
………
周りを見渡すと……いる人みんな勉強してる。
早く来て勉強してるのか…
………
「おはよー」
静かな室内に通る声。美奈だ。
僕は直ぐに美奈の方へ駆け寄った。
「おはよう、美奈!」
「………おはよう」
どこか素っ気無い返事。
「美奈?」
「………悪いんだけど、そこどいてくれる、通れないんだけど」
「え、あ、ああ」
真正面に立ったため席への道をふさいでいた。
サッと体をどける。
「………」
何も言わずにスルーっと僕を素通りし席につく。
………機嫌が悪そうだ……あからさまに……
「昨日はごめんね、せっかく作りに来てくれたのに」
「いいわよ別に」
………
………やっぱり素っ気無い。
「怒ってる?」
「どうして?」
「どうしてって……」
態度がそう示してるじゃないか。
「あ、そうだ!昨日のお詫びに今日、放課後何かおごるよ」
「いいわよ別に」
「そ、そう?」
「………」
………は、話しが続かない…
「あ、そうだ!昨日、電話したのに何で出なかったの?」
「そう、ごめん気づかなかった」
「そ、そっか……」
「話しはそれだけ?」
「え、まあ……」
それだけなら早く向こう行って、といった感じ。
それが露骨に伝わってくる。
教室がいつの間にか人で騒がしくなってきた。
これなら話しやすい。
僕は美奈の机の前でしゃがみこんで腰を据える。
「あのさ……」
「あっ!由梨!おはよー」
「………」
僕が話そうとした途端、美奈はちょうど登校してきた片瀬さんの方に歩み寄っていった。
まるで僕を避けるかのように……
授業中。
僕は深い溜め息をついていた。
昨日は無視され、今日は避けられ……
ハァ〜……
溜め息が絶えない。
避けられるのは無視されるのより辛いかも……
美奈のあの様子……もしかして何か感ずかれているのかも……
「ハァ〜」
「樋口!樋口和也!!」
「え?は、はい!」
先生に名前を呼ばれる。
気がつくと教室中の視線が全て僕の方に向けられていた。
「大きな溜め息だな。授業はつまらんか?」
「え?いや、…そういうわけじゃ…」
クスクスクス……
いつの間にか教室中の笑いものになっていた。
………溜め息を声に出してしまっていたようだ……
昼休み。
「美奈、昼一緒に……」
「ごめん、今日は由梨と食べるから」
「………」
放課後。
「美奈、一緒に帰……」
「ごめん、今日は寄るところがあるから」
「………」
何なんだよ!くそっ!!
目の前に転がっていた石をおもいきり蹴飛ばした。
石はまっすぐに転がらず左斜めの方へずれた。
今日の美奈の僕に対する態度。
あれは大嫌いで関わりたくない相手に接するものだ。
完全に無視するのでもなく、嘲るのでもなく、
「嫌いだからもう話しかけないで」、そんなメッセージをわかるように乗せて応対する。
そんな態度。
僕とはもう関わりたくないってことか……
くそっ!
僕はもう一度転がっている石を蹴飛ばそうとしたが………やめた。
………
………あれは……
僕の数十メートル前方に知ってる人がいた。
美奈の親友の片瀬さんだ。
一人で歩いている。
片瀬さんなら何か知ってるかもしれない、何か聞いてるかもしれない。
美奈は僕のことを今どう思っているのか、もう嫌いになったのか。
………
………聞いてみよう。
「片瀬さん!!」
小走りで追いつき、数メートル後ろから声をかける。
「え?」
片瀬さんは急に呼ばれてびっくりしたような趣で振り返る。
「あのさ、ちょっと……いいかな?」
「………何?」
呼び止めた主が僕だとわかったからなのか、目を細めて渋い顔をする。
まさか僕って………クラスの女子に嫌われてる?
「ちょっと相談があるんだけど…その………月乃のことで」
美奈以外の人に美奈と呼び捨てにするのは何となく恥ずかしかったので苗字にした。
「悪いけど私急いでるの」
急いでる………わりには随分ゆっくり歩いてたような……
「ごめん、すぐに終わるから」
「………まあいいわ、私もあんたに言いたいことあったし」
言いたいこと?………良いことではないよな、たぶん……ていうか、絶対。
「ありがと」
「じゃあ、あのカフェでいいわ」
カフェ?
別に僕は歩きながらでもいいんだけど……
「ほら、早く!暑いでしょ!!」
かなりの勢いで急かされる。
あれ?片瀬さんって急いでるんじゃなかったの?
………と、聞いてやりたかった。
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