「それで話しって?!」
片瀬さんは椅子にもたれ腕を組んで高いところから見下ろすかのような態度で口を開く。
うぉ、えらそーー。
めちゃくちゃ高いコーヒー頼んでおいて……
しかも「おごってくれるんだよね?」って確認とってから。
泡だったコーヒー。
これで1000円はないだろ1000円は!
いくらバリスタとか言うプロが作ったからって、やろうと思えば30秒で飲みほせる、たったそれだけの量なのに。
僕の目の前には普通のコーヒー。
くそぉー、こうなったら美奈について知ってることあらいざらい話してもらわないと。
「月乃、僕のこと何か言ってった?」
「何かって?」
「いや、だから………何か」
「そりゃー…ね!、いろいろ言ってたよ」
「何て?」
「だからいろいろ!」
「………」
………わざとだな、僕が聞きたいことわかっているのに、わざとそういうはぐらかす態度をとるんだな。
「他に聞きたいことは?」
他にって……まだ何も答えてないじゃないか…
「……月乃が今一番欲しいがってるものって何かな?」
「他!」
「……月乃が今一番行きたいと思ってるとこってどこかな?」
「はい、次が最後の質問になります」
……最後じゃなくて最初だろ!
「……どうしたら月乃の機嫌直るのかな?」
「………」
今まで淡々としていた片瀬さんの顔が変わり、目つきがキッっとなった。
「え?」
「どうして美奈のこと月乃って呼ぶの?いつもは美奈って呼んでるじゃない」
問い返された。
「どうしてって………別に深い意味はないけど…」
ただこっぱずかしいだけだ。
「ふーん、………ねえ?何で美奈が怒ってるのかほんとにわかんないの?」
何だ、やっぱり片瀬さんは全部知ってるんだ…
「ご飯作りに来てくれたのに、何ていうか……追い返すような形になったから?!」
「………何で追い返したのよ?」
「何でって……そりゃー……家庭教師があったから…」
いろいろあったんだよ、いろいろ。
「家庭教師ねー……」
片瀬さんは疑ったような意味深な顔をする。
「な、何?」
「別にーー」
疑ったよーな……
な、何か知ってるのか?!
何を知ってる!何を!!
「ねえ、美奈、昨日、和也くんを置いて先に帰ったでしょ」
「え?……ああ、そういえば」
「何でかわかる?」
「何でかって……」
わからん!わかりません!!
ていうか意味なんてあるのか??
「昨日あの後、スーパーに行ったんだよ。和也くんの夕飯の食材買いに。
あの子ったらおかず何にしようか和也は何が好きなんだろうとか楽しそーに……
わかる?!あなたは美奈のそんな行為を踏みにじったのよ」
最後の方で急に口調が変わる。
………僕のために……美奈が……
やべ、そこまで考えてなかった……
僕はただ料理を作りに来てくれたけどそれを断ったとしか……
そこに至るまでの美奈の気持ちも考えてやらなくてはいけなかった……
「………」
「それと、美奈が和也くんの家に行ったとき女の人がいたって言ってたけど?」
ギクッ
「だから、家庭教師が……」
「ふーん…」
「………」
「ハァー、……まあいいわ。誤解なら誤解って早く言ってやりなよ。あの子、すごく気にしてたから」
「気にしてた?……美奈は僕のこと嫌いになったんじゃ……」
「バカね、そんな簡単に嫌いになるわけないでしょ!
じゃあ、そろそろ私、帰るね」
「ああ、うん、今日はありがとう」
「いいわよ別に、お金、ここに置いとくね」
「いいよお金は、僕が払っとくから」
「お金あんまりないんでしょ。無理しなくていいわよ。
それに私、人におごってもらうのとか貸し作るみたいで好きじゃないし」
「あ、そう」
「じゃあね」
「うん、じゃあ」
………
机に置かれた500円。
………
………君が頼んだコーヒー………1000円なんだけど………


うーん………
美奈に電話するか、するまいか……
いや、電話はするとして、何て電話するか……
「昨日はごめん!」と、いきなり謝る…
いや、電話に出るなりいきなり謝られても戸惑うだけなんじゃ……
じゃあ、まずは世間話からして……
いやいや、険悪な状態の中、それをなあなあにするみたいでそれも……
だいたい今僕はまともに口を聞いてもらえないのに……電話する意味はあるのか?
携帯を片手にかれこれ1時間ぐらい迷走している。
……む、むずい……
恋愛というのは思っていたより難しい。
………あれ?僕が一人で難しくしてるだけか?今のところ……
………
あーーー、これじゃらちが明かない!
勉強だってしなくちゃいけない。
今日は家庭教師はないけどその分、宿題はたくさんある。
もうこうなればやぶれかぶれだ!でたとこ勝負!!
ピッピッピッ
僕は話しの筋立てができてないまま勢いで電話を掛けた。
トゥルルルルー、トゥルルルルー
………
トゥルルルルー、トゥルルルルー
………
………あれ?……出ない……
……………そう来たか……
美奈は電話に出ない。でんわにでんわ。
………
メールにしよ。
僕は謝る手段のレベルを一つ下げた。
メールなら無視されることないし、何より必ず読んでくれるし…
……受信拒否されてたら別だけど…そこまではさすがにしてないだろ。
………
何て書こう……


かれこれ30分。
えーっと、「昨日はごめんなさい、できればまたちゃんと話しがしたいです。明日また学校でm(_ _)m」
出来た!まあ、こんなもんだろ、うん!
よし飛んでけ!
送信ボタンを押すと紙飛行機が飛んで行くアニメーションがディスプレイに映る。
あーー、結構時間かかったな……
………
………紙飛行機が戻ってきた……
あれ?やけに早いな……
メールを開く。
と、そこには英文の後ろについさっき僕が書いた文章が……
………
………ま、まさか………これって………受信拒否?……
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