ピリリリリリリ、ピリリリリリリリ…
「う、うーん……」
携帯で起こされる。
誰だ?こんな早くから……
ピッ
「………はい?」
ディスプレイに表示される発信者を確認せず電話に出た。
「おっ、和也?」
………慎吾か……
「何?こんな早くから……」
「おいおい、早いったってもう10時だぞ」
「休日の10時は早いという分類に入る」
「あっそ、それより今日暇か?……ていうか暇だろ」
むむ、暇と勝手に決めつけおって。………暇だけど……
「まあ……」
「だったら図書館行かない?今から」
図書館かー。………まあ、家で勉強するのも何だしなーー……
めんどくさいけど天気もいいし……
「行くかー」
「OK!じゃあ、30分後、いつものコンビニで」
「りょーかい」
ピッ
ふぅーー。………そういえば慎吾と会うのも久しぶりだっけ。
「いやぁー、まさか休館日とはなー」
「おい、ふざけんな、誘う前に確認しろよ」
「悪い悪い、そうかー、世間じゃ今は盆休みだもんなー。
最近、模試とか予備校とかばっかで盆のことなんて忘れてたよ」
まあ、確かに、今が夏休みって感じもあんまししないし。
しかーし、”つい”や”うっかり”は言い訳にならん!
完全な無駄足じゃないか!
「で、今からどうするの?」
「うーん、……映画でも行くか?」
「えーー」
男と二人で映画というのも、何というか………むなしい。
ピリリリリリリ、ピリリリリリリリ…
電話だ。美奈から。
「わるい」
「いいって、それより誰からだ?もしかして月乃か」
ムフフフ、と、気持ち悪い笑顔で詮索を入れる慎吾。
「何だよ」
僕は慎吾に背を向けて電話に出る。
「もしもし」
「もしもし和也?!今日時間ある?」
時間?……時間かぁー。
慎吾の方を横目で見る。
「………あるよ」
「ほんと?!今どこ?家?」
「図書館の前」
「え?図書館?……今週は休みじゃなかったけ」
その通り!さずが、抜かりない。
「そうなんだよ。着いてから気づいて。……慎吾のせいで無駄骨折ったとこ」
慎吾に聞こえるように嫌味たらしく言う。
「え?慎吾君もそこにいるの?」
「いるよ」
「と、言うことで、昼から僕の家で勉強することになったけど、慎吾も来るか?」
「おっ!、俺もいいの?! いいねぇー、行く行く」
「じゃあ、引き返すとするか。今、来た道を」
「おう」
平然と言う。
……僕の嫌味を軽く流しやがった。
ちょうど太陽が真上にあるころ。
あいかわらずうるさい蝉時雨。
慎吾と二人、なるべく日陰を探して歩く。
「ところで、おまえ、どこの大学行くの?」
突然、慎吾に問われる。
「え?……うーん……まだ、わからん」
「何だよ、教えろよ」
「いや、ほんとにまだわからんのだって」
「わからん、って、何?まだ決めてないの?」
「決めとらん。ていうか慎吾は決めたの?」
「おまえなぁー、……もうとっくに決めたよ」
呆れられる。
やっぱ、まずいのかなぁー、まだ何も決めてないなんて。
……でも、今度決める自分の進路はこれからの人生に大きく影響すると思う。
そんな重大なことを決めるのに………手がかりが少なすぎる。
世の中のことなんて表面でしか知らない。
そんな中でやりたいこと、したいことを探るなんて……
そんなことをしても自分の無知を痛感するだけだ。
みんなどうやって決めてるんだろう……
はぁーあ、何かめんどくさい。
なるようになるさ。……じゃ、まずいんだろうな。
ボーっと考えていたら、いつの間にか家に着いていた。
ピンポーン
「おっ、月乃が来たみたいだな」
「ああ」
………
「やっほー」
「おう、月乃」
「慎吾君、久しぶりだねー」
「だねー」
二人の感動の対面のところ悪いのだが……僕は美奈に言ってやりたいことがある。
「ところで美奈、昨日、いろいろ部屋に忘れ物してったみたいだけど」
「えっ!ほんと?!ごめーん、ちょっと慌てててさぁー。いろいろ落としちゃったみたい」
………白々しい……
しかも落としたって………机に貼ってあったプリクラはどう説明する気だ?
………つっこんでやろうかな。
しかし………事の発端は自分にあるわけだから………何も言えない。
「その話しは後でゆっくりしよ」
語尾のイントネーションを上げて、ニコッとかわいらしく言う。
………笑ってたけど……笑ってない……
あれ?文句を言う立場が逆転してる?
「予備校どう?」
「ああ、ぼちぼちやってるよ。月乃は?夜の講座出てるんだろ?」
「うん、私もぼちぼちかな」
「はは、何だよぼちぼちって、ダメだなぁー二人とも」
「………」
「………」
………あれれ?反応がない。
「月乃、知ってる?こいつまだ自分の進路決めてないんだって」
「うそぉーー、信じらんない!……優柔不断だとは気づいてたけどまさかここまでとはねー」
冷たい目で僕を見る。
言葉の裏に何かを潜めている感じ。
「………ん?何、この雰囲気?もしかしてお二人、喧嘩してる?」
「してな……」
「してるよ」
僕が否定しようとしたらすかさず美奈は肯定した。
ていうか………昨日仲直りしたんじゃなかったの?
「なになにーー、和也、何かしたのー?」
「うん、………ね!」
ね!って………何だよそのかわいらしいフリは……
「何だ、おい、お前何したんだ?」
「ふふふふ」
僕の方を見て笑う美奈。
その顔………どうやら、昨日仲直りしたと思っていたのは僕だけだったようだ。
「は、早く勉強しよ!僕たち受験生は遊んでる暇なんてないんだ。うん」
「ほーー、”遊んでる暇はない”ねーー、まあ、そういうことにしておきますかー」
「ま、あんまつっこまいでおいてやるよ」
慎吾はそう言って僕の肩に腕を回した。
………何か………居心地が悪い………気がする。
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