ドアを開ける。
窓から青い光がわずかに射し込むだけの暗い部屋。
四角い窓から零れるその光が、埃に乱反射する。
そして幻想的な光の道を創りだす。
………
僕はスイッチに手をかけた。
「待って……」
後ろから僕の手に美奈の手が伸びる。
「………このままの方が綺麗だよ……」
部屋の中を見ながら小さな声で言う美奈。
「そう? だね」
僕たちは明かりを点けないまま中に入り、青い光にかかるようベットの上に座った。
「………」
「………」
無言………でもそれは気まずいものではない。
不思議な感じ。ただこうしてるだけで………美奈が僕の横にいてくれるだけで、何かが満たされる。
………こんなとき、手を握ってもいいのだろうか……
ベットの上に置かれた細くて綺麗な手。
あと数センチ……あとたった数センチ動かすだけで触れ合うことができる。
「………」
僕は上からそっと美奈の手を握った。
「………」
美奈はそれに答えてくれるかのように手のひらを返し、指をからめてくる。
「………ねーえ」
「ん?」
「和也、今日初めて私に言ってくれたね」
「? 何を?」
「……私のこと好きだって……」
「………そうだっけ」
「そうだよ」
初めて………言われて見ればそんな気が……あんまり気にしたことがなかったな。
「………うれしかったよ」
俯きながら言う美奈。
握る手が強くなる。
「美奈……」
「………和也……」
僕たちは自然と互いの名前を呼び合い、自然と互いに向き合い、見つめ合う。
潤んだ美奈の瞳。
………僕はそれに吸い込まれるように顔を近づけていく。
………
やわらかい感触を感じる。
………僕たちはキスをした。
高鳴る鼓動。
僕の心は美奈でいっぱいになる。
………
………もう、僕は………
キスをしたまま美奈の肩に手をかける。
そしてそのままベットに………
………
「これ以上はダメ!!」
「えっ?」
美奈は僕を押しのける。
「どうして……」
「ふん! 自分の胸に聞いてみれば」
自分の胸に………って、何か美奈……さっきまでと雰囲気が違う……
「もしかして……まだ怒ってる?」
「当たり前」
「………意外と根に持つタイプ?」
「なんか言った?!」
「いえ、何も」
地獄耳。
………
「でも………」
「!!」
美奈は一度突き放した僕の胸に絡みつく。
「美奈?」
「………しばらくこうしてよ」
「…………ああ」
僕たちは青く零れる光に照らされながら強く抱きしめあった。
心が癒される。
………僕は、やっぱり……美奈のことが好きなんだ………
他の誰よりも……


それから月日が経ち。
季節はすっかり春。
桜色が空を彩る。
「あっ、やっと来た。 遅いぞ、和也!!」
「あーー、ごめんごめん。寝過ごしちゃって」
「もーう、入学式の日に何やってるのよ」
「いや、昨日なかなか寝付けなくて」
「子供じゃあるまいし。 ほら、早く行こ!」
今日は大学の入学式。
僕と美奈は学科は違うけど同じ大学に通うことになった。
地獄のような受験生の日々を乗り越えて……
でも、その日々のおかけで僕たちはこうして手を取りあって高校生のときのように
また美奈と一緒に登校できるんだ。
このやさしい笑顔の隣で。
美奈、二人で輝けるキャンパスライフを送ろうな。
そして、刻んでいこう僕たちの思い出のアルバムに。
大丈夫、きっと僕たちでなら、それはこの桜のように色鮮やかなものになるよ。
大切にしていこう。僕たちの新しい日々を……


「あ、私の学科はあっちみたい」
「そっか、じゃあ式が終わったらこの辺でまた落ち合おう」
「うん」
「じゃあ」
「また後でね」
僕は手を軽く上げてそれに答える。
………
それにしても、大学ってでっかいなー。
あちらこちらに棟が立ち並ぶ。
いったいどれだけ面積があるんだろう。
人もいっぱいいる。
みんなここの学生なのかな。
僕は立ち止まって周りを見回して見る。
………
「あれ?」
「え?」
………
「………和也くん……」
「………先生……」
………
「………」
「………」
「うふっ、……こんにちは」
春風に長い髪をなびかせながらニコッと笑う………
………先生………
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