人気(ひとけ)のない公園。
ここに美奈を呼び出してもらった。
………まだ来ていない。
僕は一人、ベンチに座り考え込む。
………
………呼び出してもらったはいいけど………僕は美奈になんて言えばいいんだ……
あんなことを……美奈を裏切るようなことをしておいて……
軽率だったんだ、何もかも……
女の子と付き合うってことを、僕は軽く考えていた。
ちょっとぐらいなら横にそれてもいいだろう。
相手にバレなきゃいいだろう。
バレてもそうは怒らないだろう。
すぐに修復するだろう。
恋愛とは、こんなものだろうと。
でも、美奈は違った。僕を見てくれた。僕だけを見てくれていた。
ただ純粋に……
僕は………僕はいったい、何をやってるんだ……
先生と、美奈と……
先生……
先生は僕の前から消えた。ある日突然に。
!!……僕は……僕はだから美奈を選ぶのか……
先生がいなくなったから、だからまだ近くにいる美奈を選ぶのか……
違う………違う違う違う!!
僕は美奈が……
………本当にそうなのか……本当にそう言いきれるのか……
僕は、ただ手が届くから、ただそれだけで美奈を選ぼうとしてるんじゃないのか……
………わ、わからない……
「えっ、……和也?……」
「!!……美奈」
数メートルさきに美奈が立っていた。
「っ!!」
僕と目が会うと美奈は走って逃げ出す。
「待って!!」
全力で逃げる美奈を全力で追いかける。
その差はどんどん縮まっていく。
「待ってって!」
僕は美奈の腕をつかんだ。
「放して!!」
振り払おうとする美奈。
でも、僕はその腕を放さない。
「聞いてくれ」
「聞きたくない! っん……もーう、放してよ!!」
必死で振り払おうとする。
僕は手の力をゆっくり緩めた。
美奈は僕に背を向け、つかまれていた腕を押さえる。
痛かったんだろう。……無理するから……
「先生とは何もなかったんだ。……これだけは信じてほしい」
「!! そんなの信じられるわけないじゃない!!」
「美奈……」
「……仮に……仮にそれが本当だったとしても、部屋に泊めた時点でもう……」
「ごめん、 それは本当に……ごめん……」
僕は頭を下げる。
謝ることしかできない。
謝ることしか思いつかない。そんな自分がもどかしい。
「………話しはそれだけ? 私、帰る」
「ちょ、ちょっと待って」
「………何」
「何で学校休んでるんだよ。 今、僕たちは大事な時期にいると思うんだ。
だから、僕のせいで休んでるんだったら……」
パチンッ
「!!」
話してる途中で平手打ちされる。
「そんなこと!!そんなこと和也に………あんたに言われたくない!!」
「ま、……」
走り去っていく美奈。
………
………痛い……
僕は殴られた頬を押さえる。
頬を押さえながら、さっき自分が思っていたことを思い出す。
……何が………何が「手が届くところにいる」だ。
もう美奈は……美奈ももう、僕の前にいないじゃないか………
次の日。
美奈が学校に来ている。
そのことにとりあえずホッとする。
よかった………本当に……
「ダメだったんだって、昨日は」
片瀬さん……
「うん、でも話せてよかった。 片瀬さんのおかげだ、ありがとう」
「いいわよ。 ま、美奈にはこっぴどく怒られたけどね」
「え?」
「ふふ、心配しなくても大丈夫よ。 私たちの友情はこれくらいじゃ壊れないから」
「そう……よかった……」
「それで、これからどうするの?」
「? どうするって?」
「何言ってんのよ!……まさか、和也くん、もう美奈のこと諦めたとか言うんじゃないでしょうね」
「それは………仕方ないよ、僕はそれだけひどいことをしたんだから」
「ちょっと、何言ってんのよ! 1回や2回謝ってダメだったから、もうそれで諦めるわけ!?
和也くんにとって、美奈に対する気持ちは結局そんなものだったの?」
「いや、そうじゃないけど………きっと美奈はもう許してくれないよ……」
「どうしてそんなこと和也くんが分かるわけ?そんなの和也くんが勝手に思ってるだけじゃないの?」
「それは……」
「その家庭教師の人とは、結局何もなかったんでしょ」
「うん」
「それならまだ、まだ大丈夫だと思うよ」
片瀬さん………僕の背中を押してくれているのか……
「もう1回ちゃんと謝って、自分の素直な気持ちを伝えなよ。
そしてらきっと……きっと美奈も許してくれるから」
「………わかった。 もう1回……うんん、許してくれるまで、諦めない、諦めないでアタックしてみるよ」
「うーん、許してくれるまでってのはちょっとウザいかもね」
………どっちなんだよ……
「はは、冗談よ。 ふぅー……ま、がんばりなよ」
「ああ」
「おっと、次の授業が始まるわね。 じゃね」
「あ、片瀬さん!」
「ん、何?」
「ありがとう」
「」
片瀬さんは世話が焼ける、と言った感じで軽く手を上げて答える。
ほんとに世話になったな。
………美奈………今日の放課後、もう一度……
放課後。
僕は校門の前で美奈を待っている。
………
………穏やかな空の下。
今は妙に落ち着いている。 昨日とは違って……
ヒューーー
突然、強い風が吹き抜ける。
風を避ける方へ顔を向けた。
すると……
「……美奈……」
視線の先に美奈が立っていた。
「っ!」
ハッと一瞬立ち止まった美奈は、またすぐに歩き出す。
「待って!」
「………」
背を向けたまま立ち止まる。
「もう一度だけ……最後にもう一度だけ、話しを聞いて欲しい」
………
「………わかったわ」
昨日の公園。
誰もいない。
とても静かだ。
「話しって……」
あいかわらず顔をこちらに向けてくれない。
静かに吹く風が美奈の髪をなびかせる。
「僕は美奈が……美奈のことが好きだ。……世界中の誰よりも……」
………
「な、何を今さら……」
「わかってる。 でも、終わってしまう前に……最後にもう一度、これだけは伝えたかった」
「……あの人にも……同じこと言ってるんじゃないの」
「言ってない!」
「………どうだか……」
「先生は………先生とはもう会ってない。 やめたんだ、家庭教師。 僕から離れていった。 だからもう……」
「………だから………だから余った私と」
「違う!!………信じてくれないかもしれないけど……それだけは違う」
「だったら何で!」
「さっきも言ったろ。 美奈のことが誰よりも好きだから。 だからもう一度、告白をしたんだ」
「………」
「好きなんだ………」
「…………ホントに……」
「ああ」
「神に誓う?」
「ああ」
バサッ
その瞬間、美奈は僕の胸に飛び込んだ。
「ぅぅう……」
泣いている……
「美奈」
僕は美奈を強く抱きしめた。
「かずやーー」
………
………また……泣かしてしまったな……
「………ごめんね」
「うっぅぅう……」
公園のベンチ。
僕たちはそこで寄り添いながら、沈んでいく太陽を見つめていた。
「ねえ、和也……」
「ん?」
「………」
「? どうしたの?」
「今から………和也の家、行っていい?」
「………え?」
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