僕の体が女の子になって二日目。
早くもそれに不便さを感じている。
体に力が入らなく重いものが持てないし、少し走るとすぐに疲れるし
急に頭が痛くなるし、自転車を座ってこぐと何だかムズムズするし……
朝、教室にたどり着くまでにいろいろ思った。
トントン
「ん?」
机にべったりしていると横から肩を叩かれる。
振り向くと横に自分が立っていた。
体がビクッと反応する。僕自身が目の前に立っているという
このとんでもない状況に一瞬驚き、それを頭が再認識するのに一瞬の時間が必要だった。
今の僕にはほんの小さな出来事でも、それは誰もが驚くビックリ箱のようだ。
「これ、いつも聴いてる音楽とこの前買ったゲーム。いる?」
おお!さすが!!僕自身だけに気が利くね。よくわかってる。
「いるいる」と笑顔で受け取った。
「じゃ」
物を渡したらとっとと自分の席に戻ろうとする。
「ちょっと待ってよ。もうちょいかまってよ」
みんなからよく話しかけるのだが、どうも気兼ねしてしまう。
落ち着いて話せる人が欲しかった。
「や、やだよ」
一言、言葉を残しテコテコ離れていってしまった。
くそー、何だよ人の気も知らないで。。
……でも、あれが僕なのか…
女の子と話すのも女の子と話してるところを周りに見られるのも、なぜだか落ち着かない。
何だか複雑だぁー
僕はまた机に突っ伏した。
とにかく今日を乗り越えれば明日は休みだ。
明日は朝から自分の家に帰ってくつろぐとしよう。
学校でも今住んでる家でも落ち着かなくてしょうがない。
………
「ねえねえ早苗」
不意に耳元で声を掛けられる。
顔を横にやると水越さんの顔がドンッと映った。
水越さんは両腕を僕の机につけ手の甲に顎をのせている。顔が近い!
「な、何?」
驚いた表情を隠すのに必死だった。
女の子に免疫がないんだよ、僕は!
激しく抗議したかった。
「明日何してる?もしかして暇?」
「え?どうして?」
「もし暇ならさぁ、駅前に新しく出来たショッピングセンターに一緒に行こ?」
しょっぴんぐ………
暇じゃありません。ついさっき明日の予定が決まりました。
「うーん、明日はちょっと…」
渾身の残念顔をする。
「えーー、どうしてーー?行こーよー」
そんな強請られても…
「…うーん……」
「行こーよー」ギュ
ぐぉ!!!
今度は後ろから違う誰かに抱きつかれた。
背中にはやわらかい感触が……
誰だ??
ゆっくり顔を後ろに向けた。
し、清水さん///
こ、これは……今僕は僕の好きな清水さんに背中から抱擁されてる///
血が上に登る。
「ほら、由菜もこう言ってるよ」
「うん、行く」
もはや頭は真っ白になっていた。こんなとき人間は目先が楽な選択肢を選ぶ。
「ほんとにーー、やったーーー」
「ありがとーー、早苗ーーー」ギュ
抱擁が強くなる。
く、苦しい……けどうれしい。。


土曜日の朝
その場の勢いでOK出しちゃってけど女の子と買い物なんて…ほんとに大丈夫か??
いったいどこを回って何を買うんだろう??
僕の休日といえばいつもの友達とゲームショップ行ったりマンガ喫茶行ったりと
世間一般からすればじみーな過ごし方しかしてない。
それがいきなり180度回転したかのような世界に飛び込むのだから……不安だぁー
ぐだぐだ考え込みながらタンスから適当な服を選び着替えた。
………

待ち合わせの場所に約束の時間の10分前に着いた。
まだ二人とも来ていないようだ。
駅前。ちょっとした都会の中に一本の木が大きくそびえ立っている。
その木が木陰を作り景色に色のコントラストを際立たせる。
その近くにはレンガで造られたおしゃれなパン屋さん。
僕は近くの壁にもたれかかった。
今日は土曜日、朝から待ち合わせをしているカップルをたくさん見かける。
いつもの僕ならまだ家で寝ている時間だ。
僕の知らない世界。
みんな楽しそうだ。
「おまたせーー」
「ごめーん、待った?」
二人ほぼ同時にやって来た。
「うんん、今来たとこ」
二人とも走ってきたのか少しの間、息を整えている。
そんな慌てることないのに…
「ごめんごめん、じゃあ、行こう………ん?」
水越さんが何かに気づいたようだ。
じーっと僕を下から上まで見ていく。
何やら真剣な趣だ。
な、何?もしかして僕が小坂茂樹だとばれた??
……いや、自分の体をパッパッと触ったが女の子のままで別に変わった様子はない。
じゃあいったい……
「ねえ……」
な、何?
「早苗、お尻のポケットに何か入れてるでしょ」
は?ポケット??
「う、うん、入れてるよ。…どうして?」
「どうしてじゃないわよ。ほらほら、ポケットの中の物全部出して!」
僕は言われたとおりにする。
財布に携帯に飴に小銭を裸で少々…他にもいろいろ……
「うわぁー、すごいねーー」
清水さんも驚いた顔をする。どうやら彼女も水越さんが言わんとすることに気づいたようだ。
…僕はまだわからない。
「何でこんなに入れてるのよ!!」
「何でって、…便利だから?!」
そんな風に言うと二人ともはぁーと深い溜め息をつく。
何かいつも間にやら呆れられてる??
「早苗ー、あんたせっかくそんな誰もが羨むようなスタイルしてるのに
ポケットにそんなにたくさん入れてたらきれいなラインが台無しでしょ!」
「そうねー、それにもうちょっとその服、なんとかならなかったかな?」
服?
そんなの僕にわかるわけないじゃないか!
今日は暖かそうだったダウンジャケットと動きやすそうだったデニムを着てきたのだが…
どうやらそれらは不評だったようだ。
「あははは、変…だったかな」
渾身の苦笑い。
「よし!!今日は早苗をとびきりかわいく変身させよう!!!」
「うん!!そしたら早苗ならきっとファッション誌にも載れるわよ!!」
二人の顔つきが変わった。
キラキラしてる。
……何か嫌な予感がする…
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