あれから数時間。
僕はもうヘトヘトだった。
いったいどれだけの服を試着させられたことか…
服を買うとき、いつも試着なんてものはすっ飛ばしてきとーに選んでとっととレジへ。
店員のセンスまかせでマネキンに着せてあった服一式をそのまま買ったこともある。
そんな僕にいったい何着試着させるんだ。
女の子の買い物にはもう付き合ってられないorz
ぐったりしながらそんなことを考えていた。
今は近くのスター○ックスでコーヒーを飲んでいる。
マグカップのコーヒーに浮かぶ白い雪と雪だるまを崩すのはもったいない気がする。
なるべく形がくずれないようゆっくりカップを口につける。
「いい買い物できたねー」
「ねー」
二人はまだてんで元気のようだ。ぐったりしてるのは僕だけか…
あれだけ歩き回ったのに…
こういうときの女の子の体力には恐れ入る。
「明日が楽しみだねー」
「うん、そうだねー」
ほー、この二人は明日も一緒に遊ぶのか。
僕は明日こそ自分の家でまったりするんだ。
清水さんと一緒に出かけられたことはうれしかったけど
今の僕には精神が休まる場所での休息が必要なのだ。
「……早苗、聞いてる?」
「え?」
考え込んでいたから話しかけられてたことに気がつかなかった。
「明日!、ちゃんと今日買った服着てくるのよ。早苗ならバッチリだからさ!」
ほぇ?何のこと?バッチリって何が??
水越さんが何か言ってる。
頭上にはてなマークを浮かべる。
「だから、明日の合コン!」
「…………え?!」
「え?!」の間に数秒の間があった。
ごうこん?ごうどうこんぱ??
何のことですか???
「早苗も行くのよ、明日の合コン!」
はぁーーー、そんなの無理に決まってるでしょーーー!
ムリムリ!!ていうか嫌!!!
それは断固として断ろう。
「ごめーん、明日は……」
「空いてるんだよね?!」
え?何か言った清水さん?!
「いや、明日は……」
「空いてるんだよね!!」
何ですかその首を少し曲げて放つ笑顔は……
「さっき聞いたら明日は暇だって」
……さっき聞いた?うそぉ?明日の予定なんて聞かれたっけ??
必死に記憶をたどる。
それは上のフロアへ行こうとエスカレーターに乗っているときの清水さんとの会話。
「ねえねえ、早苗は普段休日とか何してるの?」
「休日?うんとねー、レンタルしたDVD見てるかな」
「へぇー、じゃあー、どんなの見てるの?」
「アニメ……恋愛映画かな」
「何だぁー、早苗もそういうの見るんだーー。ちょっと意外かな(笑」
「ははは、そーかな…」
「うん、意外だよー…じゃあ、明日も家で映画見るの?」
「うん、そのつもり」
「そーなんだー、早苗もけっこう暇してるんだね」
「うん、まあ、暇してるかな」
………
………い、言ってるーーーーーー!!!!
暇って言っちゃてるよ僕!!
こんなにはっきり言ってるんじゃ適当な理由作って断れないじゃないか!
「早苗もこの機会に彼氏でもつくりなよー」
「そーそー」
何言ってるんだ二人とも!君たちは知らないんだ!
僕はほんとは男なんだぞ!!
あたふたしている僕を尻目に二人は明日についての計画を立て始めている。
どうにか断る意図を探し出そうと心の中で頭を抱えているが、
すでに布石を打たれた僕はその厚い壁に遮られ何も思いつくことができない。
布石?……
そうだ!これは清水さんと水越さんの横暴だ!陰謀だ!!策略だ!!!
………
結局僕は明日の合コンを断ることが出来ず、参加することが決定してしまった。
明日午後の5時に清水さんの家にいったん集まって、その相手の男たちとの待ち合わせ場所に
三人一緒に行くらしい。
「今日買った洋服、着てくるのよー」と、楽しそうな顔をして別れ際に言われた。
僕はぐたーっとしながらもう一人の僕がいる僕の家に足を運んだ。
「合コン?」
「うん、……ああーー、どうしよーー」
細い声を上げながらベットの上で仰向けになって両手を広げてみる。
そうすると少しだけ開放的な気分になった。
今日はずっと窮屈だったから、それがとても気持ちよかった。
「で、どうするの?」
「それを相談してるんだけど」
「そんなこと僕に相談されてもわかるわけないじゃんか!」
ずっしりと言葉が突き刺さる。
そりゃそうだよなー、僕がわからないのに僕がわかるわけない……か…
「カフェオレでも飲めば」
「あーあー」と頭を悩ませているとその姿に見るに見かねてか
部屋の片隅に置いてあるダンボールの中からパックのカフェオレを一個取って投げ渡してくれた。
冬なのに冷えたカフェオレ。
僕はストローを袋から取り出しツーっとゆっくり飲んだ。
部屋の暖房のせいか冷えているのがちょうど飲みやすかった。
もう一人の僕は自分の分のカフェオレも取り、それまでいた机の椅子にまた座った。
それから少し無言が続く。
こぼれないようパックをうまく傾け、横に寝ころがりながらカフェオレを飲んだ。
「あ、そうだ!」
僕はあることを思い出した。
「悪いんだけどお金ちょうだい」
「はぁ?何で?」
「今日、洋服とか買って財布に入ってたお金がもうほとんどないんだ。だから」
そう、女ものの洋服は何て高いんだ、と今日思い知らされた。
初めから諭吉が数枚入ってた財布はいつの間にか寒くなっていた。
「いや、だからって何で僕が君にお金を上げなくちゃいけないの?」
「何でって、そのお金は僕が稼いだお金でもあるんだから当然でしょ!」
僕は机の一段目の引き出しを顎で指して言った。
「こ、これは僕が雨の日や雪の日も朝早くから新聞配って貯めたお金何だぞ!」
「僕だって、風が強い日、自転車が倒れてかごに入ってた新聞や広告がバサァーっと
飛び散っていったっていう悲惨な思いをしてまでして稼いだお金何だ!」
「でも君はもう僕じゃないんだから!」
むっ、なかなか引かないぞ。
かなりの拒みを見せてくる。
こうなるとは僕自身考えてなかった。
それを予測できなかったとは……まさに自分のことしか考えてないとはこのことなのか。
相手のことが見えてない……自分なのに。
「とりあえず5000円ぐらいでいいから、お願い!」
ベットから降りて近づき手をあわせて嘆願する。が、
「とりあえずって何だよ!やだよ!」と机の引き出しを頑なにブロックする。
むむっ!こっちは困ってるのに…
だんだんムキになってきた。
「いいだろーー」
体を前のめりにし手をつかみブロックを退けようとする。
が、もう一人の僕もなかなか引かない。机がガタガタ言ってる。
だんだんその音が大きくなってきた。
「いたっ!」
腕を強くつかまれ、つい声を上げてしまった。
二、三歩後ろにさがりつかまれた腕を押さえる。
「ご、ごめん、大丈夫?」
心配そうに痛がってる部分を覗き込んでくる。
ニヤッ(  ̄ー ̄)
このまま痛がって、さりげなく話しを転換してやろう。
「…イタイ、いたいーーー」
しゃがみ込んで腕を大げさに掲げる。
「………ハァー、…わかったよ」
このオーバーリアクションの意味を理解したようだ。
ため息まじりにしぶしぶ財布を開ける。
してやったり……といったところだが…自分を陥れるのも何かビミョーな感じもする…が、
まあ、良しとしよう。
しかしつかまれた腕はほんとにちょっと痛かった。
この華奢な体で無理をするのはやめておこう……
……まあ、それはさておき、明日、どうしよう……
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