合コン当日。
僕は昨日買った洋服に苦戦しながらも着替えていた。
昨日買ったのはピンクのジップアップセーターとグレーのミニスカート
それにくしゅくしゅロングブーツ。
着替え終わり思ったのは、部屋の中にいるのに既にかなり寒いと言うことだ。
こんなんで冬の外を歩くなんて想像もできない。
考えただけで氷付けになりそうだった。
とりあえず、高くて買えなかったコートみたいなものが洋服タンスにないか物色してみる。
タンスの中にはいろんな種類の洋服がたくさんあった。
うーん、こんなにあるなら昨日わざわざあんなに買わなくてもよかったかも…
そんなことを考えながら、目に止まった白いコートを取り出した。
とりあえずそれを着てみて、鏡の前に立ち、「まあ、こんなもんでしょ」と胸を撫で下ろす。
しかし、よくわからないけどこの白いコート、けっこう高そうだ。
家の中も広いし、この子の家は金持ちなんだなと察する。
僕の家から駅の反対側にあるこの家辺りは今までまったくと言っていいほど来たことがなく
まったくと言っていいほど知らない。
もちろんこの葉月早苗という人物も葉月という家族のことも全然知らなかった。
今でも、この家の家族は両親とこの子の三人家族だってことぐらいしかわからない。
おっと、もうどう考えてもわからないことは考えないことにしたんだった。
時計に目をやり、もう出る時間だと確認して部屋を後にした。


ピンポーン
約束の場所である清水さんの家に着き、チャイムを鳴らした。
昨日事細かに家の場所を教えてもらったのだが…迷った。
そのため約束の時間には5分程遅れていた。
呼び鈴を鳴らしちょっと待つと玄関の扉が開いた。
新築したばかりなのであろうか外から見た家の造り、デザインはいかにも今っぽくてどこか清潔感が漂っている。
「はーい、上がって上がって!」
僕は「おじゃまします」と大きな玄関に一度座って慣れない手つきでブーツを脱ぎ、
先導する清水さんの後ろをついて行った。
「どうぞー」
開けられた扉からどこかよそよそしく部屋の中に入った。
かわいらしいピンクのカーテンとベットの枕元にいくつか置いてあるぬいぐるみ、
床はフローリングになっていて真ん中に円状のスケルトンになっている机と白いじゅうたん、
まさに女の子といった感じとその中で落ち着いた感じがする部屋だ。
「やっほー、早苗」
部屋の中にはすでに水越さんが紅茶を飲みながらくつろいでいた。
「ちょっと遅かったね、もしかして迷ったとか?」
「うん、ちょっとね」
「そっかー、やっぱり迎えに行けばよかったね」
僕の分の紅茶を注ぎながら清水さんが申し訳なさそうに言う。
「うんん、平気、ちょっと迷っただけだから」
実はかなり迷ってたことは内緒にしておく。
あれ?…
初めての女の子の家とその部屋に入ったという緊張がちょっとだけ和らいできたところで
清水さんと水越さんがいつもと雰囲気が違うことに気づく。
「やっぱりねー」
「うん、思ったとおりだったね」
ん?二人も何かに気がついたらしい。僕の方をじろじろ見てると思ったら
今度は二人顔を合わせて何か頷きあっている。
何だ??
首を傾げる動作で問いかける。
「ふぅー、…早苗、合コン行くのにノーメイクはないでしょ」
メイク……そうか、二人とも化粧をしてるから…
いつもよりかわいく……大人っぽく感じた。その違和感だったんだ。
僕はその単語を耳にしてようやく気がついた。
「何ボーっとしてるの?ほら、今からやって私たちでやってあげるから」
へ?
「い、いいよいいよ、私は…」
「だめ!そのためにわざわざ由奈の家に集まったんだから!」
「わっ、わっ!」
水越さんは半ば強引に僕を鏡の前に座らせる。
「まずは前髪上げて……」
…こうして僕は二人によって生まれて化粧というものを顔に塗った。


合コン相手の男たちとの待ち合わせ場所はカップル御用達の金時計前。
その名のとおり目の前には金色に輝く大きな時計が聳え立っている。
待ち合わせ時間は……もう過ぎてるけど…まだやって来ない。
僕は「このまま誰も来るな!」と心の中で唱えていた。
もしかっこいい奴がいたら、そいつに清水さんを取られるかもしれない。
もし僕の目の前でそんなことになったら……そんなの嫌だ!
だいち何で僕が野郎と合コンなんてしなくちゃいけないんだ!
いつの間にか二人の女の子といることでの緊張はほぐれ、逆に不安と嫉妬に駆り立たされた。
ふと、二人の横顔を見て見る。
……まだか、まだかと期待にあふれんばかりの顔をしている。……楽しそうだ…
まるで僕とは正反対。
そんなに楽しいことなのだろうか……
複雑な心境の中ついに男たちがやって来た。
水越さんが先導をきって、早く打ち解けようと明るく振舞っている。
僕はその後ろを静かについて行った。


男たちに連れられてある店に入った。
中は少し薄暗く、オレンジ色の光だけが辺りを照らす。
木の模様をした壁や柱がどこかのリゾート気分を漂わす。
僕たちは6人用の座席に座った。
男3人、女3人、それぞれ自然の流れで横に並んで座った。
「注文どうしようか?!」
水越さんが横にあったメニューを机の中心に広げた。
「注文は俺たちにまかせてよ、この店のとっておき知ってっから。この店、隠しとかあるんだぜ」
何やら得意げに言い放つ。
「うん、じゃあー、任せます!」と言ってメニューを元あった場所に戻す。
店員はすぐに注文を取りに来て、一人の男が慣れた口調で難しそうなメニューの名前を次々言っている。
そういえば相手の男たちの年齢とかあらかじめ聞いてなかった。
でも見た感じ僕たちより年上だ。たぶん大学生ぐらい。
聞いて見ようと声を出そうとしたが……やめた。
注文を取り終ると、いざトークモードへ。
まずは順番に自己紹介してくことになった。
男たちはそれぞれ一つ笑いを取って名前を言う。
一応僕もこの場の空気をいきなり崩すのは二人に悪い気がして愛想笑いをしておいた。
全然おもしろくなかったが……
そんなこんなで次は僕たちの番。
まずは水越さんから特技など簡単な言葉を添えて自己紹介する。
清水さんはそのかわいさと優等生っぽい雰囲気から何を言ってもOKと言った感じだった。
ちなみに僕もOKマークを高くかざしたい。
などと冷静に…?…分析している間に次は僕の番。
……
しまった、言うこと考えてなかった!
みんなに合わせてとりあえず立ち上がる。
「え、えーと、こさカ……じゃなくて、葉月早苗です。えーとー、よ、よろしくお願いします」
ぐおぉ!僕が一番緊張してるじゃないか!うまくしゃべれてない。
だいち何をよろしくお願いするんだ?
僕は顔を赤くしてパッと椅子に座った。
「ヒューーー、いいよいいよー!よろしくーーー」
思いに反して、男たちからは拍手、喝采が……水越さんと清水さんからは「かわいい!!」とエールが。
…どうやらこれでよかったみたいだ。
僕は胸を撫で下ろした。
しかしこんな空気、まったく慣れてないし慣れる気がしない。
…こんなんじゃ、先が思いやられる…

………

話し上手な大学生、話題は次々生まれいい感じで盛り上がってきた。
…僕は乗り気じゃないけど……
「おまたせしましたー」
店員がドリンクを持ってきた。
すると待ってましたと言わんばかりにはしゃぐみんな。
ドリンクがそれぞれの前に置かれる。
全員グラスを手に取り「乾杯!!」とガラスの音がキンッと響く。
そして全員でグラスを傾けた。
僕も合わせて一口飲む。
…ん?何か甘さの中に苦味がある。
これって……アルコール入ってる?
僕はチラッと横を見た。
水越さんも清水さんも気づいたようだ。もう一度グラスを口に近づけようとしない。
「あれ?もしかして酒初めて?」
にやけた顔で聞いてくる。
「うん」とちょっとだけ引き気味に返す二人。
僕もそれに合わせた。
「だったら、今日は飲もう!!」
訳の分からないことを言って僕たちを煽り立てる。
男たちのグラスの中身はもう半分以上減っていた。
そのノリにつられて二人も「そうね!」と飲みだした。
二人ともすでにかなりテンションが上がってるようだった。
……おいおい、マジかよ…
前へ 目次 次へ
HOME(フリーゲーム広場へ)