二人を無事、家まで送って、今は夜の9時。
合コンが早く終わったからまだけっこう時刻は早い。
僕は僕の家に少し寄って行くことにした。
部屋に入るなり昨日と同じようにベットに寝ころがり両手を広げる。
今日も疲れたーー。
暖房が効いていてとても快適で油断したらこのまま寝てしまいそうだ。
ガタッ
ん?
部屋の扉から何か物音がした。
椅子に腰掛けていたもう一人の僕が様子を見に行く。
カチャ
「げ!」
「…何?(`_´メ)」
わずかに開いた扉の外で誰かと話している。
僕は体を起こした。
「あははは(笑、何かってことでもないけど……そうだ!(ポン、ちょっと挨拶に」
「は?いいよそんなのは…」
「いいからいいから!」
勢いよく扉が開く。
「こんばんわー!」
のこのこ部屋に入ってきたのは……妹の真由だ。
とりあえず僕はベットから降り、床に膝立ちした。
「あの、兄がいつもお世話になっております。私、妹の真由……」
急に話しをやめ、真由は僕をジーっと見ながら顔を近づけてくる。
「な、何?」
「きれい…………
あの、聞いていいですか?」
目をパッチリ開け、僕を見つめたまま言葉を発する。
「ど、どうぞ」
「あの、この兄のどこがいいんですか?」
……
はい?唐突に何言い出すんだ、この妹は。
「そんなにきれいなのに……はっきり言って、兄とは似合いません!不釣合いです!!
あなたはもっと他のかっこいい人と付き合うべきです!!!」
……こいつ、すげー失礼なこと言ってくれる!
僕がその兄だと知りもしないで。
女の子が僕の部屋に居るということで、僕たちを恋人か何かと勘違いしているのだろう。
よく考えたら、今日は化粧もしてるし、格好も決めている。
合コンの帰りだから…
しかし、だからといって似合わないとかまっこうから否定されると…
そうだ!
この美人の姿で僕のことを褒めちぎれば、きっとその邪推する態度を改めるに違いない。
フフフ、お姉さんが教えて上げよう、僕のいいところを…
「それはね、……それは………」
……
あれ?なかなか僕のいいところが浮かんでこないぞ…
いいところ………僕の…………
………
…………ない……のか?一つも……
「やっぱり、もったいないですよー!!」
この……言いたい放題言って…
「そ、そんなことないよ」
具体的に返せない自分がもどかしい。
「ふーん」
ふーんって何だよふーんって!
「じゃあ、私はこれで失礼しますね。どうぞゆっくりしていってください」
と、礼儀正しく振舞う。
こういうところはよくできてるじゃないか。
「あっ!そうだ!兄に変なことされそうになったら大声上げてください!すぐに飛んで来ますから!!」
……こういうところはまだまだ教育が必要だな。
真由はササッっと扉まで行き、勢いよくお辞儀をして「今度、私とも遊んでください」と言葉を添える。
僕は「うん」と頷くと、うれしそうに扉を閉めて部屋を出て行った。
しかし、……恋人と間違えられるとは……何ていったらいいのか
……今まで感じたことのない真新しい感覚に見舞われる。
僕の恋人が僕………しっくりとはこないが別に悪いとも思わない。
何といってもこれ以上、お互いに楽な関係はないのだから。
………
「やば!」
変なことを考えていたらいつの間にかもう9時を回っていた。
「帰る?」
「うん」
「送るよ」
「ありがと」
朝の教室。
「昨日はほんっとにゴメンね。私たち飲みすぎちゃったみたいで。あの後大変だったでしょ?」
手を合わせて謝る清水さん。
「うんん、大丈夫だよ」
「ありがとー、もーう早苗、大好き!」ギュ
///
抱きつくのはやめてくれ〜
「しっかし頭にくるわね!あの人たち!私たちにお酒あんなに飲ませて何するつもりだったのよ!!」
腕を組んで怒りをあらわにする水越さん。
「ほんとだよねー、早苗がいなかったら私たち………ありがとー、早苗ー」ギュギュ
だから抱きつくのはーーーー!!
「そういえば、昨日、小坂君もいなかった?」
水越さんがフッと思い出したように言う。
「ああ、うん、いたよ」
「……どうして?」
「え?」
「小坂君、どうしてあんな店にいたんだろ?」
「ああ、それは私が呼んだからだよ」
「え!」×2
二人して、声を上げて驚く。
「な、何?」
僕は何事かと問いかける。
「もしかしてあんたたち……付き合ってるの?」
「え?!」
付き合ってる?何でそうな………し、しまったー
今僕は女の子だったんだ。だから合コンしてる場所に男を呼び出したら……そう思われるのが当然。
「そうなの?!」
僕の前に来て真剣な眼差しで尋ねる清水さん。
違う、違うんだー、僕は、ほんとの僕は君のことがーー。
「そういえば、あんたたちたまにこそこそ隠れて話してるよね」
ギクッ!そう来たか。
この場は何とかごまかさないと……
「ち、違うよ。酔ってる二人を連れて帰るのは一人じゃ無理だと思って、
たまたま小坂君の家からあの店まで近いってこと知ってたから助けに来てもらったってわけ」
と、言ってみたけど…
「………」「………」
とてもそれだけを信じてくれた感じではない。
カラーン、カラーン…
グットなタイミングで鐘が鳴る。
「……まあ、いいわ。早苗には後でゆっくり話してもらうから」
「うん、うん」
……何やら、めんどうなことになってきた。
どうして女の子はこういう類いなことに過敏に反応するんだ?!
今のうちにもっと何か理由を考えておかないと。
結局、休み時間、昼、帰りと二人から怒涛の質問攻めにあい、最後まで疑いが晴れなかった。
あの二人、恋愛話となるともう止まらない。
僕はほどほど疲れ果てた。
今日も帰りに僕の家に寄り道している。
宿題を半分ずつ解き合い、最後にマージする。
何とも合理的な方法で数学という天敵に立ち向かっている。
まあ、わかるところとわからないところがまったく同じということを差し置いての合理化だけど。
それにしても、隣で真由も僕たちと一緒になって宿題をやっているのはなぜだ。
普段は僕の部屋に入ることすらまずないのに。
「うーん、ここどうやって解くかわかりますか?」
僕の前に教科書を差し出す。
どれどれ、しょうがない、お兄ちゃんが見てあげよう。
自信ありげに指で指している箇所の問題を読む。
いくら僕でも中学生の問題くらい解けるはずだ。
真由はうれしそうに僕に教わるのを待っている。
………
………嫌な汗が出てきた。
む、ムズイ……
複雑な形をした図形の面積。たぶん簡単な図形にうまいこと分解してそれぞれの公式を解いていけば答えに
たどり着くはずなんだが……
期待を膨らましている真由の目。
本来ならこの辺で「わからん」と投げてしまうところだが…
視線が痛い。
………
何とか教えて上げることは出来たが……どっと疲れた。
威厳というものを維持するのは難しい。
まあ、真由は僕のことを葉月早苗として見ているわけだが…
今日一日で蓄積された疲れは相当なものになってきた。
こんなときは、早く宿題を終わらせて僕とゲームでもやるのが一番だ。
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